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尊は口元に笑みを浮かべたまま、俺の質問に答えようとはしなかった。
「幸せにするんじゃ無かったの?」
たたみかけた質問にも応えようとしない尊に、俺は、もう一度言った。
「幸せに出来ないなら返して。」
プッと吹き出した尊。
「…何がおかしい?
亜希を壊しておきながら、よく笑えるな。」
「はははっ!」
尊は、声を出して笑い出した。
俺はイラつく気持ちを抑えて、尊の笑いが収まるのを待った。
「…ごめん、ごめん。
余りにも必死だから可笑しくってさ。
…凄いね。
こんな目に遭っても、まだ亜希が好きなんだ。」
笑いを堪えるように口元を握った手で押さえながら、視線だけを俺に向けた。
「僕が『はい、どうぞ。』なんて返すわけ無いでしょ?」
その視線を見返しながら、俺は言った。
「…亜希が戻りたいと言ったら?」
「今の亜希に、まともな判断は無理さ。
お前だって、警察から聞いてるだろ?」
精神鑑定の結果、亜希に下された病名は、長期入院と治療が必要な物だった。
それは、不起訴とするには十分すぎる程の診断結果だった。
「今の亜希に必要なのは、お前じゃない。
…まあ、僕でもないけどね。」
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