XVIII

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自嘲気味な笑いを一瞬顔に浮かべた後、尊はドアに向かって歩き出した。 「待てよ!まだ、話は終わってないだろ!」 「終わってるさ。 亜希は返さない。 僕は離婚しない。 亜希は僕の妻で、譲の母親で、僕の家族だ。 僕には夫として、父親として、僕の家族を守る責任がある。 お前と違ってね。」 思わず叫んだ俺とは対照的に、尊は振り向きもせず出口に向かいながら、淡々と言葉を返してきた。 そして、ドアの前でゆっくりと振り返った。 「だから、お前に亜希は渡さない。」 言葉とは裏腹な、これ以上無いって位の優しい笑顔が尊の顔に浮かんでいた。 その笑顔に魅せられ、俺は一瞬言葉を返す事を忘れた。 いつだって、俺の中で母に繋がる存在は尊だった。 こんな状況であるにもかかわらず、俺は尊の中に、いつも、母を見つけてしまうんだ。 …なぜ、こんな事になったんだろう? …なぜ、俺は尊を『兄さん』と呼べないのだろう? 尊は黙っている俺に背を向けて、ドアを開けた。 「…お前の不幸って何?」 尊の足が止まった。 「俺が生まれてから始まったお前の不幸って…何?」 尊は黙ってドアの外に消えた。
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