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…失恋…かな。 長い髪を切って欲しいと来店するお客様には注意が必要だった。 彼女達には、必ず切りたい理由があった。 金子様のお見送りを済ませ、フロアの様子を確認する。 チーフディレクターの高橋に、今シャンプーに入っているお客様の仕上げは、3番でやるように指示を出し、河野に7番を準備させた。 「…店長、切るんですか?」 ハサミを点検していると河野に声を掛けられた。 さっきの赤い顔といい、やっぱり河野の様子がいつもと違う。 「ん~、なんで?」 「…また、泣いちゃうんじゃないかと思って…」 …真剣に心配してんじゃん。 へえ… 「…一目惚れ?」 「いえ、…そういうのじゃないんです。 …でも、なんかあんな目を見るのは、ちょっと…」 「…あんな目?」 河野は何か言いかけて、結局首を横に振った。 「いえ、…なんでも無いです。すみませんでした。」 受付カウンターで名前を確認する。 『櫻木 耀』 新規お客様登録の用紙にはそれしか書いて無かった。
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