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「相変わらず華奢だな。」
「…雅兄は、…頼もしくなったね。」
「うるせ~。」
従兄弟の雅治は、東京で生活をしている。
3年前に偶然会った時依頼の再会だった。
「結婚してから10キロ近く太っちまって…」
そう言うと、雅兄はお腹を両手でポンポンと叩いた。
駅から車で3分も走ると、市街地を抜けてしまう小さな町。
直ぐに、道の周りに緑が増え始めた。
田んぼの緑、畑の緑、木々の緑。
助手席からぼんやりと眺める景色は、10年前と殆ど変わらない様に見えた。
大型のディスカウントショップやファミリーレストランなど、昔は無かった店が所々に見つけられたが、全体的な雰囲気は昔のままだった。
20分程走ると、遠くに煙突が見え始めた。
「あそこ?」
煙突を指差すと、雅兄がああと頷いた。
「手前で降ろしていいよ。」
「耀、…悪いな。」
「そんな事無いよ。助かったよ。」
信号を右折して100m程の所で、車は左に寄って止まった。
「雅兄。」
「ん?」
「中では、…他人の振りして構わないからね。」
「…」
「ほんと、ありがとう。感謝してる。
…元気でね。」
困った表情で私をしばらく見つめた後、雅兄は諦めた様に優しく笑った。
「…ああ、お前も元気でな。」
車や人通りが無い事を確認して車から降りると、雅兄の車は直ぐに走りだし、50m先の葬祭場の看板で右折し視界から消えた。
雅兄は、通夜の席に私の姿が無い事を気にして連絡をくれた、唯一の親族だった。
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