2/12
前へ
/261ページ
次へ
「相変わらず華奢だな。」 「…雅兄は、…頼もしくなったね。」 「うるせ~。」 従兄弟の雅治は、東京で生活をしている。 3年前に偶然会った時依頼の再会だった。 「結婚してから10キロ近く太っちまって…」 そう言うと、雅兄はお腹を両手でポンポンと叩いた。 駅から車で3分も走ると、市街地を抜けてしまう小さな町。 直ぐに、道の周りに緑が増え始めた。 田んぼの緑、畑の緑、木々の緑。 助手席からぼんやりと眺める景色は、10年前と殆ど変わらない様に見えた。 大型のディスカウントショップやファミリーレストランなど、昔は無かった店が所々に見つけられたが、全体的な雰囲気は昔のままだった。 20分程走ると、遠くに煙突が見え始めた。 「あそこ?」 煙突を指差すと、雅兄がああと頷いた。 「手前で降ろしていいよ。」 「耀、…悪いな。」 「そんな事無いよ。助かったよ。」 信号を右折して100m程の所で、車は左に寄って止まった。 「雅兄。」 「ん?」 「中では、…他人の振りして構わないからね。」 「…」 「ほんと、ありがとう。感謝してる。 …元気でね。」 困った表情で私をしばらく見つめた後、雅兄は諦めた様に優しく笑った。 「…ああ、お前も元気でな。」 車や人通りが無い事を確認して車から降りると、雅兄の車は直ぐに走りだし、50m先の葬祭場の看板で右折し視界から消えた。 雅兄は、通夜の席に私の姿が無い事を気にして連絡をくれた、唯一の親族だった。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加