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その夜。
「どうしました、グリン?……あ」
フロイスエイプの巣は外よりも暖かいとはいえ氷点下。久しぶりにグリンに寄りかかって眠っていると、モソリ、頭をもたげる気配がありました。
「始まったみたいですね」
フロイスアルジェの頂から、強い聖性を帯びた魔力がゆっくりと山肌を降りてくる。感覚的にはとろりとした、少し粘度のある、なんだろうフルーツソースのような?
う〜ん、雪山にフルーツソース……かき氷みたいです。寒い時には……いらないかな。
そんな事を考えていると、ボッボッ!と至る所でフロイスエイプ達が騒ぎ始めた。皆、この濃い魔力を感じ取ったみたいです。
という事は、気付かない訳はない。
「宣戦布告……になるのでしょうか」
「そうでしょうな」
どこかのんびりとグリンは言う。
「お逃げになるなら今のうちです」
「え?いいんですか?」
そう答えると、意外だったのか真ん丸くなった目が合った。
「ふふ、冗談ですよ」
「ふぅふぅ……お人が悪い」
「貴方に言われたくありません」
クスクスと笑っていると、グリンも小刻みに身体を震わせている。笑っているのかな?そう思っていたら。
「私は意志を持って主を死地に誘おうとしています。罰せられて余りある罪でしょう」
ふわふわの毛、柔らかな手触り、少しだけ緊張した気配。
「確信犯と言うやつですか……でも」
そのまま頭を埋めて、ふわふわを楽しんで。
「このままでは可愛い弟に外のお散歩を楽しんで貰う事すらできませんし、頑張りますよ」
もうフロディは家族の一員。フロイスエイプ達の身の安全も護れない。先月は巣穴の近くで銀狼に二人やられているらしい。ここが見つかれば甚大な被害となる。エルフの里の皆さんにルーンドラゴンの今を伝える事も出来ない。
「その代わり、皆さんも」
「ボッボッボッ!」
流石に訳されなくても分かります。
「やる気満々、みたいですね」
宣戦布告はなされた。これから約半月後、新月の昼にあの銀狼とケリをつける。
「お料理も下拵えが肝心です。今回の勝敗を左右するのは確実にこれです。忙しくなりますよ」
グリンが低い声で伝えると、雄叫びとドラミング。皆さん自身を鼓舞するように夜通し騒ぎ。
「あ……おはようございます……それじゃぁ、また」
漸く静かになって眠って、起きた時にはお日様が
……真上にありました。
「フロディ、怒ってるかな……」
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