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「僕も会いたいな、その人に」
「あはは、マスターも会いたいって言ってました」
「へぇ、マスターって言うの?変わった名前だね」
目を大きく見開くレイチェル。僕は少しだけ嘘を吐きます。
「僕の大好きな料理屋さんのマスターです。名前じゃないですよ」
ダンジョンマスターだと、皆に知られる訳にはいかないのです。キッチンで一緒に立ちながら、そう言う設定にしようってマスターと決めたのです。きっと僕はマスターの事をマスターと呼んでしまうから。
「ふーーん。そうなんだ」
「はい。では行きますね」
「僕も連れて行って!!」
「えっ?ダメです。レイチェル疲れてるでしょう?さっき沢山魔力使ったんです」
「えぇー、セルリア、食べれそうなモンスターがいる場所分かるの?」
ニタッと可愛らしい顔に意地悪そうな笑顔を浮かべて腕を組んでいます。
「さ、捜します」
「僕と一緒なら直ぐに連れて行ってあげるのに~」
「ですが、レイチェルは」
「護ってくれるでしょう?セルリアが」
「……勿論そのつもりですが、万が一の事があれば」
「ニルだって護ってくれるもん」
『おいおい、我まで巻き込むな小娘。ああっ!おい!勝手に乗るな!!こらっ!降りろ!!』
「暴れる?セルリアも乗ってるんだよ?」
なぜでしょう、シグと同じ空気を感じます。
『ぐっ!!卑怯者めぇっ!!』
「ほらほら!しゅっぱーつ!!」
『あっ!コラっ!!主以外に腹を蹴られるのはっ、ダメだっ、や、やめろぉっ小娘ぇええっ!!』
「あわわ、止めてくださいレイチェルっ!!分かりました!連れて行きますからっ」
「そうこなくっちゃ!!」
少々強引にレイチェルが着いて来ることに。ふわりとニルが浮かぶと、彼女は渓谷の方を指差した。
「あっち!マリッツァボアが生息してるんだ!」
「イノシシ系のモンスターですね」
ブヒーモスとご先祖は一緒という噂です。より寒冷地に対応するために体毛が変化したもの、とこれは図鑑の知識ですが。
「行くぞっ!!ニル!!」
『小娘……』
ポンポンと首筋を叩くと、ニルは一度鼻を鳴らして走り出した。
「元気出てきましたね」
「うん!僕はもうみんなの前では沈んだりしない!そう!太陽になるんだ!」
「明の巫女ですからね」
『無茶苦茶な小娘だな……。舌を噛むなよ』
またニルは身を切る様な寒さの中、夜風を切り大空を駆けた。
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