第五章・敵と味方

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  稔麿の言葉に、 緋色は思わず目を見開いた。 ―…私… 泣きそうな顔してた――…? そんな彼女の頭を、 稔麿は優しい手つきで撫でる。 「…吐き出しちゃえば?辛い事、不安な事、全部。」 「…………。」 「仕方ないから…俺が聞いてあげるよ。」 頭を撫でる手があまりに優しくて… 緋色はゆっくりと目を閉じた。 「…なんか…吉田さんが優しいと、怖いですね。」 「…馬鹿にしてんの?」 「ははっ、まさか!」 …不器用な優しさが胸に染み渡って温かくなる。 緋色は小さく笑うと、 静かに俯いた。 ―…辛い事、不安な事――… 「…怖い、です。」 ぽつりと呟いた声音は、 自分でも驚く程震えてた。 「…不安な事…ばかりで…。」 …そう… 不安ばかりが、 次から次へと溢れてくる。 自分の事。 総司の事。 新撰組の事。 長州の事。 定められた未来 塗り変えられる過去 まだ見ぬ行く末 …そして… 今もこの身を縛る「あの人」の存在――… 「もう、どうすればいいのか…分からない事ばかりなんです。やりたい事、やらなきゃいけない事はたくさんあるのに…。でもそれをしてしまえば、反対に傷付いてしまう人達もいる。…私はそんなの…嫌なんです。」 「…………。」 …総司達を守りたい。 けれどそれは、 目の前にいる彼らを傷付ける事になる。 守りたい… でも、 傷付けたくない。 相反する「想い」がぶつかりあって、 どうしていいか分からない。 緋色は自嘲気味に笑って言った。 「どうして人は、“想い”だけで全て上手くいかないんだろう…。そしたら、不安になる事も、傷付く事も、ぶつかり合う事もなくなるのに…。」 ―…そしたら きっと 誰も悲しむような事なんてないのに――…  
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