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(…いやだな…)
緋色は新撰組の皆が大好きだった。
…総司を、
彼のいる新撰組を守りたいと本気で願っている。
けれど…
その「仇」となるはずの目の前にいる人物を、
自分は嫌いになれないでいるのだから。
「…白雪?」
ついぼうっとしてしまい、
稔麿に呼び掛けられてるのにも気付かなかった緋色は、
ハッと我に返って慌てて「はいっ!」と返事をする。
稔麿は怪訝そうな顔で緋色を見つめていた。
「…何度も呼んでるのに無視するなんて…本当に君はいい度胸をしてるよね?」
「え?あっ、ご、ごめんなさいっ!つい…。」
「ははは…」と乾いた笑いを溢す緋色をじとっと見つめると、
稔麿は深いため息をついて杯を置いた。
「…で、どうしたの?」
「…へ?」
「何かあったわけ?」
「あ…の、一体何の話を?」
脈絡がない稔麿の言葉に、
緋色は意味が分からず首を傾げる。
そんな彼女を稔麿は馬鹿にしたような目で見やると、
わざとらしく再びため息ついた。
…さすがの緋色も、
ぐさりと胸に突き刺さる。
「…何か、悩んでるんじゃないの?」
ぽつりとそう小さく言った稔麿に、
「え…?」と緋色は目を見開く。
「俺が気付かないとでも思ったわけ?…能天気な顔が取り柄のくせに、さっきから辛気くさい顔ばかり…見てるこっちの気が滅入るんだけど。」
(…貶されてるようにしか聞こえないんだけど…)
緋色は苦笑すると、
「何でもないですよ」と笑った。
それに稔麿は「…ふーん…」と答える。
…すると次の瞬間、
ふわりと何かが緋色の髪に触れた。
「…え?」
それは、
稔麿の掌だった。
突然の事に驚き固まる緋色の瞳を、
稔麿は真っ直ぐに見つめる。
「…なら、なんでそんなに泣きそうな顔してるの?」
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