第五章・敵と味方

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  「…………。」 稔麿は、 ただ緋色の話を聞いていた。 …やがてゆっくりと唇を開くと、 静かに言葉を紡ぐ。 「君って馬鹿でしょ。」 思わず、 がっくりと肩を落とした。 (…確かに…吉田さんに話した私が馬鹿だった…) そんな事を思いながら緋色が顔を上げると… 目の前には、 綺麗な顔で微笑んでいる稔麿の姿がある。 思わず目を見開いた緋色に、 稔麿は静かに口を開いた。 「それは、それぞれが持つ“想い”が違うからだよ。」 その言葉に、 緋色はただ彼を見つめる事しか出来なかった。 「たとえば…君が持つ“信念”とか“想い”とかそういうものが、俺の持っているものと違うように…人には人それぞれの考えや想いがあって、同じものはほとんどない。…ま、似通ったものはあるんだろうけどね。」 そう言って、 稔麿は遠くを見つめる。 「だから、全てが“思い通り”には進まないんだ。…同じ“想い”なら、それは簡単だっただろうけど…そうはいかないから“想い”同士がぶつかりあう。」 淡々と紡がれたその言葉に、 ずきりと緋色の胸が痛んだ。 …分かってる。 いや… 分かりきっていた事だ。 全ての人が同じ「想い」で生きられる訳じゃない…。 もしそれが出来たなら、 誰も「争い」など起こしはしないのだから。      ・・ 「…でも、それがあるから“人”なんだよ。」 その言葉に、 緋色は思わず目を見開いて顔を上げる。 稔麿はわずかに微笑した。 「誰しもが不安に怯えて、苦しんで、傷付いて…それがない人なんていないんだ。…だから皆、それぞれの“想い”でぶつかりあう。…たとえ、それで傷付く事があったとしても…それでも、相手に自分の“想い”を知ってもらいたいから。」 そう言って稔麿は、 緋色の髪を優しく撫でながら告げる。 「そうして人は、他人の“痛み”も分かるようになるんだよ。」  
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