第五章・敵と味方

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  緋色はただ、 真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳から目を逸らせなかった。 そんな彼女に、 稔麿は静かに続ける。 「傷付く事やぶつかりあう事に怯えるのは、誰しも当たり前の事だよ。…さっきも言ったように、それが“人”なんだから。…けれど、怯えているだけじゃいつまで経っても前に進めない。」 「…………。」 「…だから、君は君の“想い”のまま…出来る事をやっていけばいい。ぶつかる事なんて、恐れずに。…何もかも“思い通り”に進むなんて事はあり得ないけど…自分の“想い”を貫く事で、“知る事”はいくらでも出来るから。」 そう言って優しく微笑む彼を見つめると、 緋色は俯いた。 (…ああ…) そして、 小さく「そっか…」と呟く。 「…そうなんだ…。」 …何を、 弱気になっているのだろう。 先に起こる事ばかりに怯えて、 不安に溺れそうになって…。 人生が思い通りに進むなんて事は、 誰にもあり得ない事。 …けれど、         ・・・・・ 自分は「未来」を知っているから… それだけに心乱して、 ずっと怯えてばかりいた。 …けど、 今生きている人達にとってそれは当たり前の事。 …不安になるのも、 …苦しくなるのも、 …傷付くのも、 …ぶつかり合うのも、 誰しもが日常茶飯事の事で… 一つ一つ気にする暇もなく、 ただ「今」を生きる事に必死なのだ。 (…馬鹿だなぁ、私…) どれも全部当たり前の事。 たとえぶつかる時があっても、         ・・・ そこから少しずつ知っていけばいい。 それが「人」の強みであり、 より一層「想い」を強くする。 …「想い」だけでは、 どうする事も出来ないけれど… それが後押ししてくれるのは事実だから。 ならば、 今自分が出来る事をやって行こう。 己の「想い」のままに…。 …全てが悪い方向へと進む訳じゃない。 込み上げてくる不安は、 今も止まらなくて… 怖くて怖くて仕方ないけれど――…  
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