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緋色はただ、
真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳から目を逸らせなかった。
そんな彼女に、
稔麿は静かに続ける。
「傷付く事やぶつかりあう事に怯えるのは、誰しも当たり前の事だよ。…さっきも言ったように、それが“人”なんだから。…けれど、怯えているだけじゃいつまで経っても前に進めない。」
「…………。」
「…だから、君は君の“想い”のまま…出来る事をやっていけばいい。ぶつかる事なんて、恐れずに。…何もかも“思い通り”に進むなんて事はあり得ないけど…自分の“想い”を貫く事で、“知る事”はいくらでも出来るから。」
そう言って優しく微笑む彼を見つめると、
緋色は俯いた。
(…ああ…)
そして、
小さく「そっか…」と呟く。
「…そうなんだ…。」
…何を、
弱気になっているのだろう。
先に起こる事ばかりに怯えて、
不安に溺れそうになって…。
人生が思い通りに進むなんて事は、
誰にもあり得ない事。
…けれど、
・・・・・
自分は「未来」を知っているから…
それだけに心乱して、
ずっと怯えてばかりいた。
…けど、
今生きている人達にとってそれは当たり前の事。
…不安になるのも、
…苦しくなるのも、
…傷付くのも、
…ぶつかり合うのも、
誰しもが日常茶飯事の事で…
一つ一つ気にする暇もなく、
ただ「今」を生きる事に必死なのだ。
(…馬鹿だなぁ、私…)
どれも全部当たり前の事。
たとえぶつかる時があっても、
・・・
そこから少しずつ知っていけばいい。
それが「人」の強みであり、
より一層「想い」を強くする。
…「想い」だけでは、
どうする事も出来ないけれど…
それが後押ししてくれるのは事実だから。
ならば、
今自分が出来る事をやって行こう。
己の「想い」のままに…。
…全てが悪い方向へと進む訳じゃない。
込み上げてくる不安は、
今も止まらなくて…
怖くて怖くて仕方ないけれど――…
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