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―…沖田さんと
「約束」したから――…
「守る」と。
…たとえ、
「未来」が行く末を変えても…
必ず彼を「守る」と決めた。
…だからもう、
迷って小さく怯えてる暇はないのだ。
緋色は顔を上げると、
満面の笑顔を稔麿に向ける。
「ありがとう、吉田さん。」
唐突な、
話の意図も分からないような自分の悩みを聞いて、
馬鹿にすることもなく…はなかったが、
真剣に答えてくれた彼。
―…この人は
沖田さんの「敵」…
だけど、
本当はとても優しい人。
変えると決めた「未来」がどうなるか分からないけど…
今はただ、
自分が出来る事をしていこう。
…私は私の「想い」のまま、
後悔しないように――…
稔麿は目を見開くと、
緋色に優しく微笑んだ。
「…君は本当に、ころころ表情が変わる…。そう言うところも“あの人”に似てるね。」
「あの人」という人物に、
緋色はきょとんと首を傾げる。
稔麿は緋色から目を逸らすと、
遠くを見つめた。
「俺の“大切な人”だよ。…人生の“師”であり…俺を導いてくれた人。…さっき君に言った言葉も、実はあの人の受け売りなんだ。」
懐かしそうに…どこか悲しそうに話す稔麿から、
緋色は目を逸らせなかった。
「変わった人だったよ。…いい大人のくせに子供っぽくて…いつもへらへら楽しそうで、けど意外と涙脆かったり、その都度くるくる表情が変わって…。」
「…………。」
「いろんな事を教えてくれた。…学問だけでなく、必要な知恵、命の尊さ、生きていく上で大切な事。…だけど……」
一瞬、
言い淀んだ稔麿を不思議に思って顔を見ると、
緋色はドキッとする。
…彼のその瞳は、
初めて会った時と同じ…
奥が見えないほど暗く淀んでいたからである。
(…ああ…きっと…)
―…この人の「憎しみ」の根底には、
・・
そこに何かがあるんだ――…
そんな予感を感じながら、
緋色はただ稔麿を見つめていた。
…やがて、
稔麿は緋色に振り返ると優しく微笑んで言う。
「君にはどうでもいい話だったね。」
そう言って、
酒を呷る稔麿を緋色は暫く見つめると、
静かに口を開いた。
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