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「そんな事ないです。」
稔麿は、
再び緋色に視線を向ける。
…彼女はただ優しく微笑んでいた。
「吉田さんの言葉が、“その人”の言葉だったなら…私は、“吉田さん”と“その人”に救われたんだから。」
『君は君の“想い”のまま、出来る事をやっていけばいい』
不安ばかりに駆られて、
どうしようとただ狼狽えるばかりの自分に…
そう、
言ってくれたから…
『自分の“想い”を貫く事で、“知る事”はいくらでも出来るから』
もう怯えてばかりじゃいられないんだと。
この「心」のまま、
前に進む事を決められたのだから。
「だからもう…私にとってもその人は、“どうでもいい”存在じゃありません。」
そう言ってふわりと微笑んだ緋色を、
稔麿は目を見開いて見つめる。
そんな彼に緋色は悪戯っぽく笑って、
・・
「あの吉田さんがそこまで言うほどの人だから、きっととっても優しい人なんでしょうね!」
と続けた。
稔麿はただ無言で緋色を見つめていたが、
やがてふっと息を吐くような笑い声を上げる。
「…本当、君って変わってるよね。」
「むっ…それを言うなら、吉田さんだって!」
唇を尖らせる緋色を稔麿は目を細めて見つめると…
次の瞬間、
彼女の腕を取ってその身体を自分の方に引き寄せた。
突然の事に緋色はぽかんとしていたが、
状況を理解すると、
顔を真っ赤にさせて稔麿の身体を引き離そうとする。
「ちょっ…吉田さんっ!?」
「うるさいよ。」
直接耳に囁かれた低い声音に、
緋色はさらに顔を真っ赤にする。
稔麿は、
腕に抱いた身体をさらに強く抱き締めて言った。
「…もう少し…このままで。」
…その声が、
微かに小さく震えていたような気がして…
緋色は戸惑いながらも、
ただ身を任せる事しか出来なかった。
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