第五章・敵と味方

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  「そんな事ないです。」 稔麿は、 再び緋色に視線を向ける。 …彼女はただ優しく微笑んでいた。 「吉田さんの言葉が、“その人”の言葉だったなら…私は、“吉田さん”と“その人”に救われたんだから。」 『君は君の“想い”のまま、出来る事をやっていけばいい』 不安ばかりに駆られて、 どうしようとただ狼狽えるばかりの自分に… そう、 言ってくれたから… 『自分の“想い”を貫く事で、“知る事”はいくらでも出来るから』 もう怯えてばかりじゃいられないんだと。 この「心」のまま、 前に進む事を決められたのだから。 「だからもう…私にとってもその人は、“どうでもいい”存在じゃありません。」 そう言ってふわりと微笑んだ緋色を、 稔麿は目を見開いて見つめる。 そんな彼に緋色は悪戯っぽく笑って、  ・・ 「あの吉田さんがそこまで言うほどの人だから、きっととっても優しい人なんでしょうね!」 と続けた。 稔麿はただ無言で緋色を見つめていたが、 やがてふっと息を吐くような笑い声を上げる。 「…本当、君って変わってるよね。」 「むっ…それを言うなら、吉田さんだって!」 唇を尖らせる緋色を稔麿は目を細めて見つめると… 次の瞬間、 彼女の腕を取ってその身体を自分の方に引き寄せた。 突然の事に緋色はぽかんとしていたが、 状況を理解すると、 顔を真っ赤にさせて稔麿の身体を引き離そうとする。 「ちょっ…吉田さんっ!?」 「うるさいよ。」 直接耳に囁かれた低い声音に、 緋色はさらに顔を真っ赤にする。 稔麿は、 腕に抱いた身体をさらに強く抱き締めて言った。 「…もう少し…このままで。」 …その声が、 微かに小さく震えていたような気がして… 緋色は戸惑いながらも、 ただ身を任せる事しか出来なかった。 ―――――― ――――
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