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クスクスと笑いながら、仁志くんは煙草を咥えたまま窓の外を見る。
「一色にはまだ実感できないかも知れないけど、覚えておくといい」
「なーに」
どうせ、この人には何を言ったって敵わないんだろう。
ふて腐れて返事をすると、仁志くんは思いの外優しい笑顔を浮かべてあたしを振り返った。
「ひとつひとつの行動が点みたいに見えても、いつかふと振り返ったらいつの間にか線になってて──気付いたら、自分の人生がすっかり決まってしまっていることに愕然とすることがある」
「……」
「だから、何かを選ぶ時は慎重にね。まあ、浅海さんがついてる間は大丈夫だと思うけど」
仁志くんの言うことは、まるで遥か遠くの景色のことのようで、ぼんやりとしか判らなかった。
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