二つのマスコット

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 興奮していた。友達の方にも、マスコットは効果を発揮したのだった。  そうなると、あとの話は早い。流行の最先端をつくっているのは、いつの時代も女性である。口コミやインターネットでマスコットの噂は広がった。たちまち、遊歩道でストリートショップをやっていた商人の店は大繁盛となった。売っても、売っても、客足が途絶えることはなかった。  受験や就職を控えた学生の親から病人にまで、それこそ、老若男女、幅広い層に売れた。  あまりの人気の高さに、政府もマスコットに不正な細工がされているのではないかと疑い、商人を調べてみたが、彼には何一つ不審な点はなかった。ちゃんと、営業許可書をもった上の商売であったし、利益から発生した税金もしっかり、払っていた。政府にしてみれば、税金さえ納めていれば、あとはどうでも良かったので、それ以上の追求はしなかった。マスコットも調べようとしたが、幸運と不運を科学的に分析し判断することは不可能だったので見送られた。  唯一、怪しい行動といえば、マスコットに幸運と不運を与える儀式をする為だといって倉庫に籠もることぐらいだった。  それから、数年が過ぎた。幸運と不運のマスコットで財を成した商人は世界的な大富豪になっていた。今では、ストリートショップなど開かなくても、世界中からマスコットの発注はくる。  マスコットが出来上がるたびに、商人は儀式を行うといい、倉庫の中へと姿を消した。彼がどのような儀式を行っているのか、誰も知らなかった。人々は勝手な想像をばかりを張り巡らせ、怪しげな儀式を思い描いたり、悪魔か何か超感覚的な存在を呼び起こしているのではないかと思っていた。  しかし、商人の行動は誰も予想できていなかった。彼は倉庫に入ったあとも、何もしていなかった。ただ、時間が過ぎるのを待ってノンビリしているだけだった。儀式用だと言って、倉庫に持ち込んだ上等な酒を飲みながら彼は独り言を呟く。 「全く、何で誰も気付かない。幸運や不運なんて、本人が最初から持っている運に委ねられているに決まっているじゃないか。俺は、ただそれに便乗して商売をしているだけなのさ」
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