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「これで良し、と…」
テーブルの上、午後の陽を浴びて水色ガラスの一輪挿しと、カーネーションの花びらについた水滴がキラキラと光る。
ただ、一輪挿しに挿されているのはピンク色のだけだ。カノから貰った赤いカーネーションは迷った末、花屋でされるのと同じように切り口を濡らしたティッシュペーパーとアルミホイルでくるんだ。今はキドの前ポケットに入っている。
認めたくはなかったけれど、何故だかこのカーネーションだけは、自分のそばに置いておきたかった。
ばたん、と玄関の方でドアの開く音がした。そのすぐ後にまた別のドアが開く音がして、パタパタという足音がキドのいるダイニングへと近付いてきた。
「キド~、いるッスか~?」
「多分いると思うけど…あ、キド」
「…今度はお前たちか」
ハキハキした爽やかな声と、ちょっと遠慮がちなあどけない声。セトとマリーだ。
セトは二日程前から放浪していたが、今ちょうど帰ってきた所らしい。兄弟と同じくらい外見年齢の離れた恋人の手を引き、にこにこと穏やかな笑みを浮かべている。隣で笑うマリーに視線を落とすと、その手には予想通りと言うべきか、黄緑色と、純白のカーネーションがそれぞれ一本ずつ握られていた。キドの視線に気付いたのか、マリーは溢れんばかりの笑顔でそれらを差し出した。
「はいキド!」
「え?あ、ありがとう…黄緑色なんて珍しいな」
「バイト先でもらったんスよ」
新しい品種なんだって!と、マリーが目を輝かせて言う。ビロードで作られたようななめらかに波打つ花びらは透ける程薄く、鮮やかな黄緑色も綺麗だ。
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