適任者

12/52
前へ
/52ページ
次へ
おあつらえの家を見つけた。 玄関の反対側は街灯も届かず、真っ暗だ。 部屋の明かりに慣れ、暗闇には慣れていない目がなにかの拍子にこちらを見たとしても、闇以外なにも見えないだろう。 その家もすぐ近所の家も、犬は飼っていないようだ。 犬はまずい。 たとえ見えなくとも、いとも簡単に、「俺」の存在をかぎつける。 家の明かりはどこにも点いていない。 住人はそろっておやすみのようだ。 俺は静かにすみやかにブロック塀を乗り越えると、裏にまわった。 壁の向こうは、どうやら台所らしい。 ますますいい。 ――さてと。 仕事、に取り掛かった。        ・ 「俺」が最初に、仕事、をしたのは、いつのことだったか。 よく覚えていない。 たぶん、六歳か七歳か八歳あたりか。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加