適任者

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なぜこんな大事なことを覚えていないのか、それが自分でも不思議だ。 一生はっきりと覚えていても、おかしくはないのだが。 人間の記憶とは不可解なものだ。 今は、仕事、は一つしかやっていないが、そのころはいろんなことをやっていた。 一つに落ち着いたのは、もっと後のことだ。 それもいつごろからなのか、よくわからない。 それも不思議だ。 ひょっとしたら、「俺」のやっている、仕事、とは、俺にとっては、まるで息をしていることのように自然な行為なのかもしれない、と考えてみたりもした。 ただ覚えているのは、今の、仕事、は、最初は年に一回ぐらいしかやっていなかったように思う。 それがいつの間にか半年に一回となり、その後、じわじわとインターバルが短くなっていった。 ――もっと仕事がしたい。
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