適任者

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「私」は気分を害し、ラジカセのスイッチを切った。 昔からそうなのだが、私は下手な唄を聴くと、すこぶる不快になるのだ。 時には吐き気をもよおすこともあるくらいだ。 昔テレビで見たことがある、素人参加型のど自慢番組。 まれにうまい人もいるが、そんなものは例外だ。 ほとんどが聴くに堪えない。 最後まで見たことを、大いに後悔したものだ。 それを今でもはっきりと覚えている。 よくも最後まで見たものだと、いまだに不思議に思う。 おそらくあの日、私はどうにかしていたのに違いない。 あれ以来、一度も見ていない。 あんなものを毎週のように見ているやつの気が知れない。 おそらく音楽的感性というものが、欠落しているのだろう。 音痴が音痴の歌を聴いて喜んでいるのだ。 私は、そんな無神経なやからとは、まるで違う。
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