序章

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 西暦三三九〇年・夏  静寂を破ったのは爆音と悲鳴だった。一瞬にして音があふれる。 『MS‐一五ッ! 応答せよッ』  無線から聞こえる声も聞こえているのかいないのか。敵のか味方のか区別のつかない血があちらこちらで飛ぶ。その中で一人の男が洞窟に入って行った。  崩れるように地べたに座り込んだ男は無線に力なく言った。 「こちらMS‐一五より、MS‐一へ…」  荒い息を懸命に抑えながら続ける。 「右足を、やむなく切断…。何とか、洞窟に、今…」 『MS‐一五ッ! 喋るな分かった! 詳しいことは後でいい! 足の切断面に気をつけろ、菌が入ったら終わりだ!』 「了解…」 『あと――』 「貴様ッ!」  男がゆっくり顔を上げると、そこには決して味方ではない服を着た男が二人いた。 『MS‐一五? どうした、応答せよッ』  薄笑いを浮かべたMS‐一五は手に持っていた木の棒を放った。二人の男は顔を見合わせてからMS‐一五に飛びかかった。――そして、 『MS‐一五ッ! MS‐一五ッ! ――MS‐一五ッ…』  二度と開くことのない手には、立方体の木箱が握られていた。
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