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影を焼き焦がし肌を突き刺すような攻撃的な太陽もやっと満足してくれたのか少しずつ衰え、今年も我々の体感温度の上昇に貢献してくれた蝉達も最後の力を振り絞り蟻の餌として生を閉じ始めた2013年8月31日 夏休み最終日。鈴野 彩菜は同じ文学部の部長である葉瑠先輩から日記帳をもらった。
──夏休みも今日が最終日、提出しなくてはいけない課題もまだ半分程度産まれたままの状態で部室のロッカーに封印されており、彩菜は極めて憂鬱な気分で部室へと足を運んだ。まだ朝の7時30分、学校の途中にあるコンビニで買ってきた野菜ジュースとサラダパスタ、珈琲とガムとFRISKとミンティアと頭脳パンと、その他お菓子の詰まった袋を机に乱暴に叩きつけた時、「やぁ彩菜ちゃんおはよう」と声がした。
慌てて反射的に「おおおはようごじゃいます!」と答えた彩菜だったが、「うん、おはようごじゃいます」とこんなにも日常的に使う言葉を噛んだことを茶化されて、相手の顔を確認する前に赤面して机の木目とにらめっこを余儀なくされた。木目にすらケラケラと笑われてる気がしてきた頃に「ごめんごめん、私が悪かったからその可愛い顔を此方に向けてごらん」と彼女が言うものだからいっそう顔を赤らめながら視線をあげれば、振り子式古時計に寄りかかった状態で椅子こぎしながら読書にふける葉瑠先輩が目に写った。
そこは彼女の指定席で、一時間ごとに耳元で鳴く古時計に悪態をつきながらもけして譲ろうとはしない場所。どうやら思い入れというか思い出があるらしく、本を読むというよりそこに座るために彼女は文学部に居るようなものだった。
古時計にも愛着があるらしく、佐藤先輩なんて名前までつけて可愛がっている。
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