あたしと先輩の夏休み最終日

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黒いエナメル質の表紙に大きなピンク色のリボンが着いた、両手を広げた程度の大きさ、いわゆるポケットサイズの手帳。入部して間もない頃から葉瑠先輩が持っているのを時折目にしていた。葉瑠先輩が普段使っているものとはまた違うセンスのもので、一目で気に入ってしまった彩菜は目にするたびに欲しい欲しいと言ってきたのだが「夏休みが終わるころにあげるから」の一点張りで譲ってはくれなかった。 そのまま夏休みに入り、すっかり忘れてしまっていたのだが「ほら、調度今日で夏休みも終わりだし」と椅子をキコキコ言わせながらポッキーを口に指してゆく葉瑠先輩に、彩菜は目を輝かせながら何度もお礼を言った。 「大事にしてね」という言葉にももちろん首を大きく縦にふって答え、さっそく中の模様とかも見てみようと指をかけたとき、葉瑠先輩の後ろで古時計が時の経過を教えてくれた。 「ほらほら、宿題やらなくていいのかな一年生」と焦らせるように警告する葉瑠先輩に「うぅ……やります」と日記を未練がましくゆっくりと机に置き、反抗期真っ只中のプリント達と向かい合う。その横で「ちなみに私は去年、間に合わなかった」と尊敬する先輩が心が折れそうなことを呟いているのをスルーして、今度は二ヶ月ほど前に習ったはずの英文法を頭の端から引き上げる作業にはいる。「うーん……えっと……」と頭を抱えて唸っている愛すべき後輩を眺めながら、葉瑠先輩はお構いなしに話しはじめた。
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