あたしと先輩の夏休み最終日

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「私も宿題、貯金しちゃう派なんだ。去年も半分以上残っててね、いまの彩菜ちゃんみたいに部室に朝からこもってやってたんだよね」 それはつまり、今さら頑張ったところで無駄だと言いたいんだろうか。と脳裏を超低速で通り過ぎる余念を力ずくで排除しながら彩菜はペンを動かす。一方ポッキーを動かす葉瑠先輩はどこか遠い目をしながら懐かしむように次の句を探していた。 「一人だけの部室で粛々と書いて書いて書いて、汐里は今ごろ白紙のプリントと一緒に海水浴かと思うと悲しくなったなぁ」 汐里先輩も別にプリントと泳いでる訳じゃないんだろうが、あの先輩の性格なら宿題は最初から諦めちゃう派なんだろうと推測しながら、彩菜は泳がせる訳にはいかない目の前のプリントにペンを立てた。いっそ泳いでどこか遠くに行ってくれればいいような気もするが。 「ところで彩菜ちゃん、他の一年生は誘わなかったのかい?」 「その汐里先輩と一緒に海でプリントを泳がせてます」とは言えなかったが、「汐里と海か」と言うまでもなく当てられてしまった。 「まぁそうだろうとは思ってたんだけどね」と言いながら彩菜の眠気覚まし七つ道具のひとつであるミントガムをひとつ拝借して口に放り投げる。 「次の君の台詞は、「あぁ宿題なんてもうどーでもいーやー」だ!」 「……え? いやあたしは負けませんよ!」 ビシッと指を此方に向けられて言われた台詞を困惑しながら言い返す彩菜を眺めて、期待してた答えが返ってこなかった葉瑠先輩は「まぁ知ってるはずもないか」と小さく呟いて人差し指をおろした。
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