あたしと先輩の夏休み最終日

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夏休みの友と称されることもある彼らの戦いは過酷を極め、もう三日くらい経ってしまったんじゃないかと不安になるほどの体感時間の中にいた彩菜は、古時計の針がまだ10時30分を指していたことに驚きを隠せなかった。 気づけば宿題も3分の1を消費してしまい、自分の集中力に感嘆した後「なんだ、余裕で間に合うじゃん。夏休みの友とるにたらず!」と誰かに意気込んだ。 そして「休憩です」と呟いて手に取ったのは先程もらった手帳。これは葉瑠先輩が普段日記に使っていたものだから、ついでに先輩のプライベートを赤裸々にしてやるんだという気概でエナメル質のしっとり馴染む手触りの表紙を高鳴る胸を抑えながらゆっくりと開いた。 「えっと……ふむ、どうやら葉瑠先輩は日記に月日を記入しない人みたいだよワトソンくん」と無い眼鏡をクイッと上げながら、ワトソンくんと名付けられた16枚入りの煎餅に調査報告をする。そもそもホームズは眼鏡をしていないのだがそこは彼女の妄想補正で補われている。 女の子らしい丸字の羅列を眺めながら「葉瑠先輩ってこんな字だったんだ」と呟き内容に目を落とす。
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