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倫子は困惑していた。
いくら自分は他人とは違う奇異な考えを持っていたとしても、突然奇異な存在に遭遇したときはなにもできない。
ただ困惑する右往左往するばかりである。
倫子の下半身はお湯に浸かり、あまり立派とは言いがたい、一糸纏わぬ華奢な上半身は湯気に隠れたり表れたりしていた。
「人よ。困惑しているな」
倫子の目の前の湯気の中から、声が飛んできた。幼く澄んだ綺麗な声だ。
倫子は一瞬短く唸って、声の主を見つめる。その先には、銀髪銀眼、倫子よりももっと華奢な年端のいかぬ少女が、やはり倫子と同様に、あられもない姿でたたずんでいた。
「名は倫子というか。人」
なぜ知っている。と倫子が思ったその時、一陣の風が吹き、一瞬湯気がその風に運ばれ、明後日の方向に消えていった。
辺りが晴れると、少女の後ろに湯に浸かりながらうごめくものたちが見えた。
倫子はぎょっとする。
あれは、本でも見た。文献でも読んだ。
漫画やアニメでも見た。
「妖……怪?」
倫子の喉の奥から、狭くなった声帯から、やっとか細い声が絞り出てきた。
やはり見間違えではなかった。
あれは間違いなく。
妖怪だ。
生まれて初めて出会う。
妖怪だ。
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