序章: BORDER LINE

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蠢く影は、ゆらりゆらりと水面をたゆたっている。二つのまあるい白が横一列に間をあけ現れ、倫子をぎょろりと凝視した。 倫子は凝視されたと感じた。 「(あれは瞳?)」 見つめられている。 頭からちょうど温泉の水面のところまで、まるでなめ回すかのように、 まるで、倫子を 「(まるで私を……、美味しい……餌を、見定めるかの)」 「いー身体しとるのう」 倫子の思考を遮るかのように、その蠢く影はとんでもないことをいい放つ。 一瞬なにを言われたのか。というか、その蠢く影がしゃべったのか。倫子は頭の整理がついていない。 彼女が混乱していると、お湯をかき分け、大型の猿のような、ゴリラのような生き物がゆらりと影の横に来て湯につかった。 「おい、海坊主。どうだ、美女の裸を肴に」 猿がまあるいお盆にお猪口と徳利を乗せ、海坊主と呼ばれた影の前に差し出すと、海坊主はどこにあったか、その大きな口を開き笑い声を上げた。こりゃ風流風流。と、 「比々、海坊主、貴様ら、潰すぞ」 銀の少女が殺意を込めて、二匹を睨み付け言った。 「これは空亡」 「おそろしやおそろしや」 「(くうぼう?……ひひ?うみぼうず?)」 空亡(くうぼう)と呼ばれた少女は、再び倫子のほうに向き直った。 「まあ、しかし良い身体といわれるのは悪い気がしない。なあ、倫子よ」 「わしらはあっちの子のこといったんじゃがのう」 「そうだよなあ」 海坊主と比々は倫子を指差して、耳打ちをし合う。 「……」 空亡は、こめかみを押さえて、再び二匹を睨み付けた。
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