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「わ、私は」
「ん?」
倫子は初めて空亡に話しかけた。
「私は、初めて見ました。妖怪」
「そうか」
空亡は、そうだろうな。と続ける。
「初めて妖怪を見たといった顔をしているものな」
だってそうだろう。
妖怪は、信じる人はいれど、一般的にはお伽噺や夢物語だ。
現実に、生で、妖怪をこんなにじっくりと見た人間はめったにいないと倫子は確信する。
「大丈夫。喰らいはしないさ」
空亡は相変わらず妖艶な笑みを浮かべ、倫子に言った。しかし、言われた本人としては、なかなか信じられることではない。
「お伽噺の我々は人を食らうそうじゃ空亡」
倫子の心の内を知っているかのようなフォローを海坊主が入れた。
「まあ、実際には人を食らうものもいるがな」
続いて比々が今聞きたくはない情報を言う。
「ふぅむ」
空亡は顎に指をあてがい、考えているそぶりを見せたあと、
「人と同じだな。悪いところはすぐに露見し、善きところはなかなか日の目を見ない。それは妖怪も人間も同じだ」
倫子がわかったことは、二つ。
妖怪はこの世にいるということと。
自分の前にいる妖怪は悪い妖怪ではなさそうである。ということだ。
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