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まるで人間の様。と、彼等妖怪を見て、倫子はふと思った。
いや、もしかしたら『人間以上に人間らしい』のではないか。とまで感じてしまった。
少し落ち着いた倫子が口を開く。
「ここ、魍魎温泉ですよね」
「そうだが」
群馬県のある山のなかにある秘湯。
魍魎温泉
車でしか来れないであろうそんな山奥。自然にわきだす知る人ぞ知る秘湯。
岩に囲まれた場所に湯がわきだしており、整備はされていない。そんな場所である。
だが、その泉質は素晴らしく、女性の柔肌に対し無類のうるおいを与えるのだ。
さすが、温泉の街、群馬といえよう。
「妖怪も温泉にはいるんですか」
どうでもいい質問が空亡をつく。
「人が入り、猿が入り、たまに犬だって鳥だって入るのだ。なぜ、妖怪が入らない。我々は虫かなにかかと思っているのか」
正論だと倫子は思った。
「倫子、さきほどまで私を人だと思っていたな?」
この温泉に入るとき、空亡がいたのはわかっていた。年端もいかぬ美少女がこんな山奥の温泉にひとりでいるなんておかしいとは思ってはいたが、妖怪の類いだとは思いもよらなかった。よるわけなかった。
「倫子よ」
空亡は倫子を見つめ言う。
「今際の際まで来たな」
「え」
私死ぬのか。
と、倫子はあっけにとられ聞いた。
黄昏が温泉に満ち、夕闇がしんしんと空を亡くしていく。
そろそろ我々の時間だ。
と、空を見ながら空亡は呟いた。
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