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 私は実家に帰るとパソコンを借りた。差し出された名刺には各務蓮のアトリエ住所、電話番号、そしてURLが記載されていた。1階のダイニング、母はカウンターを隔てたキッチンで夕飯の支度をしている。 「バスで来たの? 大宮駅まで迎えに行ったのに」 「ううん。会社の人とタクシーで来ちゃった」 「そう」 “各務蓮(Ren Kagami) アトリエへようこそ”、そのURLを開くと画面にはそう表示された。トップページ中央には向日葵の絵が映し出され、その右端には各務蓮の経歴、左端には今後の予定が記されていた。経歴には生年月日、学歴、入賞歴、師事した画家の名前などが羅列されている。大学は都内の有名校だが、小中学校は群馬県前橋市内の公立校。前橋の出身。あの葬儀の執り行われた洋館もきっと前橋市内のものだろう。往復に上越道を通った記憶はある、高速道路の白緑の標識には新潟高崎などと記されていたのを覚えているから。 「32歳……」  各務の生年月日から計算すると年齢は32歳。私より10近くも年上だ。でもあの飄々とした雰囲気は年齢不詳で、40と言われればそうも見えるし、25と言われればそうかもしれない。不思議なヒト。ダイニングでパソコンを開いていた私は、母がこちらに料理を置きにくる足音に気づいて、慌てて各務のホームページを消した。 「会社の人?」 「うん。中学が同じだった。5歳上だから被ってる時期はないけど」 「あら。じゃあ上がってもらえばよかったのに。お世話になってるならご挨拶したかったわ」  母がまたキッチンに戻ったのを確認して、再び各務のホームページを画面に出した。向日葵の絵の下には各務の顔写真が乗っている。
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