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暗闇のキスは瞼を銀幕にして映像を映した。向日葵の絵、白い紙に向かう真剣な各務の顔、広瀬川に映り込む空の青。つまりは、先輩のキスを受け入れて私が見ていたのは各務の残像。
「ただいま」
「おかえり。遅かったわね」
「あ、うん。急に中田さんに呼び出されて、今、送ってきてもらった」
母は上機嫌だ。上がってもらえば良かったのに、と言いながらキッチンで料理をしている。私は疲れたのか意識がはっきりしない。足元もフラフラしてダイニングの椅子を引いて即座に腰を落とした。前橋への小旅行、先輩のプロポーズ、婚約、そしてキス……。目まぐるしい一日。
そして結納金。欲しいモノが手に入るかもしれない。
「中田さん、また改めて伺いたいって」
「改めて? あら、随分とかしこまってるわね」
「うん。結納だけでも早く済ませたいみたいで」
「結納? 未映子……?」
「うん。中田さんと結婚しようと思う」
キッチンで菜箸を持っていた母はそれを調理台に置いてダイニングに来た。部屋続きのリビングで新聞を広げていた父も立ち上がる。
「未映子、決めたか」
「うん。自然に出た話だし、ご縁ってこういうものかなと思って」
「そうよ。同じ会社で同郷でお歳もいい頃合いだし、母さんも中田さんなら」
「おいおい母さん、そんなに嬉しそうにまるで母さんが結婚するみたいだな」
「お父さん、中田さんにヤキモチ?」
「おいおい未映子。父さんをからかって」
父はダイニングの棚にあるワインを取り出す。年代物のワイン、コルク栓を抜いた。
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