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「嫌なら」  先輩がそう言い掛けたところで私は遮った。 「いえ。せっかくですから……。あの」 「何?」 「ただ、内緒にしてもらえませんか?」 「誰に……。ご両親に?」 「ええ。今日、絵を見に行ったことです」 「外泊のことじゃなくて、か?」 「はい。突然、結納金で絵を買うなんて言ったら、父も母も反対すると思うんです。だから父と母には黙ってて欲しいんです」 「分かった。じゃ、今日はデートしてるうちにバスに乗り遅れて、ということにすればいい?」 「はい、そうしていただけると」 「じゃあ、携帯。河合のご両親に電話して。俺が話すから」  私は鞄から携帯を取り出し、自宅に電話をする。母が出たところで先輩に変わる。先輩はいかにも申し訳なさそうに、田舎のバスは本数が無い、自分が時間を間違えた、バスに乗り遅れたのでそのまま1泊したいがいいか、と尋ねていた。母があっさり承諾したのか、はたまた呆れたのか、通話はすぐに終わった。 「ゆっくりしてきてください、って。怒ってなかった」 「良かった。結構母は煩くて」 「じゃあ俺は河合の母親に認められてるのかな」 「だと思います」  先輩は携帯を私に返すとフロントに向かった。
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