2174人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌なら」
先輩がそう言い掛けたところで私は遮った。
「いえ。せっかくですから……。あの」
「何?」
「ただ、内緒にしてもらえませんか?」
「誰に……。ご両親に?」
「ええ。今日、絵を見に行ったことです」
「外泊のことじゃなくて、か?」
「はい。突然、結納金で絵を買うなんて言ったら、父も母も反対すると思うんです。だから父と母には黙ってて欲しいんです」
「分かった。じゃ、今日はデートしてるうちにバスに乗り遅れて、ということにすればいい?」
「はい、そうしていただけると」
「じゃあ、携帯。河合のご両親に電話して。俺が話すから」
私は鞄から携帯を取り出し、自宅に電話をする。母が出たところで先輩に変わる。先輩はいかにも申し訳なさそうに、田舎のバスは本数が無い、自分が時間を間違えた、バスに乗り遅れたのでそのまま1泊したいがいいか、と尋ねていた。母があっさり承諾したのか、はたまた呆れたのか、通話はすぐに終わった。
「ゆっくりしてきてください、って。怒ってなかった」
「良かった。結構母は煩くて」
「じゃあ俺は河合の母親に認められてるのかな」
「だと思います」
先輩は携帯を私に返すとフロントに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!