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 チェックインの手続きが終わり、仲居が私たちを部屋に案内する。キャンセルが出たのは貴賓室で、この旅館の中でもトップクラスの部屋らしかった。一般的なホテルのドアの向こうには引き戸の玄関があり、その奥にはリビング、ミニカウンター。和室も二部屋あった。ホテルで言えばスイートにあたるんだろう。仲居は部屋をざっと案内して下がる。ドアが閉まる金属音がしたのを確認して先輩は私の前に来た。私の肩に手を置き、顔をのぞき込む。私は目を閉じた。唇が触れる。 「河合……」 「あの、買い物に出てもいいですか?」 「あ、ああ。女の子はいろいろあるよな」 「先輩は何か必要なものは」 「下着くらいかな。シェーバーとか洗面用具はそろってるだろうし」 「一緒に買ってきます」 「頼む」  鞄を持ち、部屋を出る。フロントで近くのコンビニの場所を教えてもらい外に行く。先輩とのキス……。浮かぶのは各務の顔。車の中で初めてキスしたときと同じように残像が瞼に映る。まるで各務とキスしてるような錯覚に陥った。
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