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 私は布団から目を逸らしてワインを口に含んだ。カウンターにはチーズの盛り合わせが置かれていた。山吹色のチェダー、小麦色の肌をしたスモーク、そしてブルーチーズ。私はブルーチーズに手を伸ばした。 「河合はブルーチーズ、食べられるんだ」 「はい。母が好きで冷蔵庫には常備されていて。子供の頃は食べつけなかったんですけど、いつからか」 「へえ。親子だから味覚も似るのかな」 「そうかもしれません。長年連れ添ってるのに父は食べませんし」 「俺も苦手。でも河合がそんなに旨そうに食べるなら、少し」  先輩は皿からブルーチーズを摘んで少しちぎり、口に放り込む。そして一瞬、顔を歪めたあとワインで流し込んだ。白く僅かに黄色い塊には黒い線がいくつも伸び、マーブル状の模様を呈している。 「クセがありますよね」 「ああ。結婚相手がブルーチーズを食べられなくてもいい?」 「構いません。そしたら冷蔵庫に常備しても中田さんは食べませんし」 「河合が独り占め?」 「はい」  母はブルーチーズの中でもロックフォールと呼ばれるクセの強いタイプが好きだ。塩分も高く、風味もコクも強い。アルコールのつまみにする訳でもなく、キッチンで料理をしながら摘んではお茶を飲んでいる。彼女にとっては日常的な、言い換えれば不可欠な食べ物だ。
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