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その場に張り付いたように動けなかった。後ずさりすることもできたし、無視することもできたけれど、女の子のお話を無視することができない。それは五年前の夏休み……。
「男の子は言ったの、『お前はどこにもいかせない』『お前の舌は俺の物だ』『だから、お前を保護してるんだ』つまり、女の子を部屋に閉じ込めたのね」
ガッシャンと、両手を合わせて鍵をかけるような真似をして。酷いことするよねとニコニコ笑う。私は笑えない。
「それから男の子は女の子の舌を噛みきろうとしたんだ。自分の歯でグチャグチャってでね、ここで大番狂わせ、女の子は男の子の舌を逆に噛みちぎって逃げ出した。男の子は出血多量と階段から転げ落ちて死んでしまいました」
手元の日本人形の口の穴に指を突っ込み、引き抜く仕草をしながら。
「困った女の子は二人の内の男の子の一人に相談したの、『男の子が死んじゃったどうしよう』男の子は『山奥に』『埋めよう』『そうしたらバレない』」
ザック、ザック、スコップで埋めちゃった。女の子はニコニコと笑いながら
「その女の子は喜々津お姉ちゃんなの」
頭を鈍器で殴られたとはこのことかもしれない。五年前の夏休みの秘密が今更になって蘇ってくるなんて。
「でもね、それからが問題なの」
「まだ、あるの?」
「うん、その死んじゃった男の子はね、いまでも探してさ迷ってるんだ。喜々津お姉ちゃんの舌を、自分の舌を、どこだー、どこだーって、ほら、後ろに」
女の子が指差しす、私は振り返る。
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