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「一緒に帰るか?」 コータは毎回そう訊いてくるけれど、あたしは必ず首を横に振る 「遠慮しとく」 「そうか」 コータは無理にあたしを実家に連れて帰ろうとはしないけれど 「親父さん、さみしがってるぞ」 毎回そう言葉を続ける あたしはその言葉に返事することもなく、バスルームへと向かいシャワーを浴びた 三年前、実家から通える距離にある会社に就職したにも関わらず、一人暮らしを始めたあたし それから一度も帰ってない パパのことは大好きだし、お母さんもあたしによくしてくれる だけど実家に帰りたくない ただそれだけ あたしが家を出た当時、実家に一人残したパパのことは少し気がかりだったけど 再婚した今はお母さんとコータがいるから、パパは一人じゃない だからあたしはますます実家に帰ろうとは思わなくなった 亡くなったママのことを想うと、両手(もろて)を上げてパパの再婚を喜ぶことはできなかったけど パパと一緒に暮らしてくれるお母さんにはすごく感謝してる
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