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そして、また視界がぐにゃりと曲がる。
玲央にはどういったわけかよく分からないが、場面が変わるのだろうということは理解できた。
スイッチが入るようにして、場面が切り替わった。
玲央が周囲を見回すと、そこはまさにパーティー会場だった。
玲央は紗菜の誕生日パーティーに招待された時を思い出す。
紗菜は紅茶が好きで、様々な種類の茶葉を集めていた。
初めて飲んだゴールデンルールで淹れた紅茶の味が懐かしく感じる。
「あら、そこにいるのは玲央ではなくて?
なかなかお姿をおみせにならないので心配しておりましたのよ」
先日とは比べ物にならないくらいに豪華な装いの紗菜が、随所に薔薇の彫刻が施されたダイニングチェアに腰を落ち着けていた。
明らかに紗菜の口調が変わっている。
姫らしさでも演出しているのだろうか。
その向かいには終の姿もあった。
「玲央にも事情があるんだろ。
ああ、そうそう、玲央にはまだ言っていなかったな……美海が見付かったんだ。
……ほら、美海、玲央だよ」
自分もその場に居合わせた筈なのに一体何を言ってるんだ、その言葉は美海の姿を目にすることで一瞬にして吹き飛んだ。
「…………………っっ!!」
何とか声を出すまいと必死に堪えた。
堪えることだけで必死だった。
美海の喉元から白い蛆が沸いていた。
ぐちゅぐちゅになった傷口は紫に変色しており、うっすらとだが、腐敗臭さえ感じられた。
異常だ。明らかに異常だった。
「……………………………」
金魚のように口をしきりに動かそうとするが、声が出るわけもない。
顎が上下運動を繰り返す度に蛆が薔薇色のクッションフロアにボトボトと落ちていく。
二人は美海の様子に全く気付く素振りも見せず、談笑を続けている。
召し使いに運ばせたアンティークのカップに手を伸ばした紗菜が思い付いたように話し出す。
「美海は喋れないみたいですのよ。
おかしいですわよね、まるで、『人魚姫』みたい」
「にん、ぎょ、ひめ…………?」
玲央は、自分の中で何かが眠りを覚ますような、そんな不思議な感覚を覚えた。
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