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赤い薔薇が咲き乱れた。
ウッドフロアに迸る花弁。
貴婦人の表情は恐怖で歪んでいた。
「な、ん、で」
言葉にならない断末魔。
差し込まれたダガーは貴婦人の純白のドレスをいとも容易に突き破り、肉を食い、生命の拍動ごと綺麗に貫いていた。
支えきれなくなった脱け殻がどさり、と力なく床に落ちた。
溢れ出るあたたかいものが、床をみるみる内に蹂躙してゆく。
死が完全に標的を覆い隠すまでしっかり見届けねばならないのだ。
「あなたに直接的な恨みはない」
淡々と紡がれる、辞世の言葉。
事切れた貴婦人の胸元からダガーを躊躇いもなく引き抜いた女は、刀身の汚れを長い舌先で綺麗に嘗め取った。
短いながらも稀なる輝きを放つ、碧色の髪。血のように爛々と灯る一対の輝き。
雪のような白肌を隠すものは今まさに浴びたばかりの赤に染まり、浴びた薔薇のシャワーが彼女のしなやかな肢体にまでまとわりつく。
あと一つ──それで終わる。
女は決意じみた呟きを空に放つと、闇の入り口へと戻っていった。
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