12人が本棚に入れています
本棚に追加
「ち、ちょっと、どこ見てるのよっ!」
紗菜が振り上げた手は、玲央の頬めがけて綺麗に吸い込まれていった。
「女は勝手だ……畜生。見られるのが困るくれーだったら、はなっから美海みたいにスク水にすりゃいいのによ」
「ははは、まーなー。
玲央の言いたいことも分かるけどよ。
でも、さすがにあの紗菜がスク水はないんじゃないか?
やっぱりスク水ってのはな、未成熟な女子が着るから萌えるんであって……」
「やっぱてめーも同じ穴のムジナじゃねーかよ、終(しゅう)!」
「玲央くん、いいことを教えてやろう。紳士というものは思っていても口には出さないものさ」
「はっ、言ってろ!」
玲央の悪友、終(しゅう)は女子に人気の俗にいうイケメンというカテゴリに属する。
茶髪ロングヘア、ごつめのサングラスにアロハシャツをすらりと着こなす。チャラ男という分類は終により直々に却下された。
水泳部、夏の合宿。
毎年恒例の行事であるが、今回は特別だった。
良家のお嬢様でもある紗菜がチャーター便を手配し、別荘があるという小笠原諸島の某島に無料招待をするという夢のような本当の話は、水泳部員、総勢八名、全員の士気を赤丸急上昇させ、当然であるが満場一致で可決された。
貸し切りともあってか、ビーチに観光客の姿はない。
何の気兼ねもなく自由気ままに夏の海をエンジョイできるというわけだ。
はじめのうちはそれこそ綺麗な海の魔力に引き寄せられるように泳いだりはしゃいだりと忙しなく動き回ったが、さすがに疲れを感じた玲央はビーチ備え付けのビーチチェアに腰掛けた。
うだるような灼熱も、ビーチパラソルが遮断してくれているからだろう、暑さを忘れ、うとうとと眠気まで襲ってくる。
このまま寝てしまおうかと考えていた矢先──
玲央の頬にひんやりしたものが触れた。
最初のコメントを投稿しよう!