予兆

4/8
前へ
/50ページ
次へ
「こら、オヤジか君はっ!」  そこには、全身から雫をしたたらせた紗菜の姿があった。 よく見ると、玲央が感じた刺激の犯人は、紗菜の手に添えられた缶コーラだった。 「もうバテたの?……情けない! 寝てばかりいたらね、青春なんてあっという間に過ぎていくんだぞ」  言うことだけ言って満足したらしい。  紗菜は玲央から離れ、踵を返した。  そしてなぜか二、三メートル進んだ先で思い出したように立ち止まった。 「おっと、しまった、忘れ物だ」  コーラ缶は紗菜の手から離れ、綺麗な軌道を描いて玲央の手にしっかりと収まった。 「サンキュー! でも俺はもう少しここにって、うぉわぁぁああああ!!!」  開けた瞬間、爆発する仕組み。  これぞ『お約束の展開』に、紗菜が笑い出す。 「あはははははははっ!」  眩しい太陽よりも眩しい、紗菜の満面の笑顔に、ついつい玲央の頬も緩み、 「ははははははははっ!」  一緒になって笑い出した。  笑い声は、真夏の海にいつまでも響いていた。  
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加