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『えー続きまして気象情報です。
小笠諸島南部に突然超大型の台風が出現しました。
台風は勢力を非常に強く保ったままゆっくりと北上しており────』
「ん!」
テレビの代わりにと紗菜が付けていたラジオからそんな放送が流れ、玲央は思わずスマフォを操作する手を止めた。
操作に夢中で気付かなかったが、先程までのうだるような熱気はもはや感じられず、むしろ肌寒かった。
リクライニングしていたチェアを起こし、降り立つと、今の今までパラソルで隠れて見えなかった景色が目に飛び込んでくる。
空の青は一面、灰色に埋め尽くされていた。
厚い黒雲が辺りを覆い隠すまでさほど時間はかからなかった。
徐々に風も強くなってきている。
雨どころか、嵐がじきにやってくるだろう。
玲央はすぐに走り出した。
波打ち際あたりですぐに終の姿を見つける。
「玲央、無事だったか!
部員数名を紗菜が別荘に連れて行った。あとは、俺とお前だけのはずだ」
「お、そうか。
よし、じゃあ俺達もこのまま紗菜の別荘に────あれは、紗菜!?」
終と玲央の上着を手に、紗菜が走り込んできた。
かなり飛ばしていたのだろう、立ち止まった紗菜は息を切らせ、苦しそうだった。
「ど、どうしたんだ?」
顔色がすこぶる悪い。
それは、最悪の状況を示唆していた。
「………美海が、美海がどこにもいないの! どうしよう!!」
全身を震わせながら、砂浜に落ちていく紗菜は泣き崩れた。
頭を鈍器で叩かれたような衝撃だったが、今は立ち止まっている場合ではない。一刻も早く美海を探すことだ。
「美海は泳げないはずだ!
だから浮き輪のまま風に流された可能性が高い!
──紗菜! あの備え付けの救命ボートを一隻使わせてもらう!
お前らは早く避難しろ!!」
「何言ってるんだお前!!
そんなボートごときじゃすぐに転覆しちまうだろ!犬死にもいいとこだ」
「…………くそっ」
終の言うことはもっともだ。
だが、玲央は、そうしている間にもどんどん流されていくだろう美海のことを考えたら、一刻でも早く助けてやりたい気持ちがはやる。
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