予兆

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 泣き崩れていた紗菜が、何か思い立ったのか突然立ち上がった。 「………ある、あるわ。 別荘の裏手にモーターボートがある! 玲央、私も行く! 私、小型船舶の資格を持ってるわ!」 「よし、頼む!」  玲央と紗菜は一つ頷くと、終の方へと目を向けた。 「…………わかった。俺も行く。 だが無理だと思ったらすぐに引き返そうぜ!」 「………よし。 三人で美海を探しにいこう!」  曇天からの横殴りの雨が激しく水面を叩き付ける。 黒煙のような雲は時折、閃光を放ち、唸り声を上げる。  水面はシーソーのような激しい上昇と下降を交互に繰り返し、平衡感覚に揺さぶりを掛ける。  海はかつてない程荒れ狂っていた。  荒波に浮かぶモーターボートは、激しい浮き沈みにもどうにか堪えていた。  唯一の光源である吊り下げ型の航海灯が、風を受けてぎしぎしと音を立て揺れ、立ち消えを繰り返す。  玲央と終は身体を固定したロープを手摺に縛り付けた。  命綱をしっかりと掴みながら、二人は声を張り上げる。 「美海! みーうー!! 居たら返事しろーーーー!!」 「みうー! 助けにきたぞーー!!」  暴風雨の中で、そんな声が果たして濁流を漂っているだろう美海に届くわけがないのかもしれない。  それでも、ほんの少しでも望みがある限り叫び続けようと玲央は思った。  「玲央っ、美海はいた!?」  船室の奥、操縦桿を握りながら紗菜が叫ぶ。 「今! 終と一緒に探してる!!」  ほんの数メートル程の短い距離での意志疎通でさえ困難なのだ、荒波に揉まれた浮き輪を目印に探すことなど絶望的と言わざるを得ない。image=472547776.jpg
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