予兆

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 そうこうしている間にも、天候はますます崩れて行き、遂には稲光が大地に向けて迸った。 「くっ、これはまずいぞ!」  終の声がした。  襲いかかる雨風に加え、アップダウンの激しい揺れたら見舞われ、そのたびに船体がぐらりと垂直に傾く。 「終!! ひとまず一時避難しようぜ! 紗菜のところに戻ろう! この波では俺達もやばい!」  暴風雨により、視界の確保さえままならなくなってきた。  玲央は終とともに手摺に固定した命綱の緩和に取りかかった。  固く結んだロープは水を吸って滑っており、思うようにほどくことができない。 「終! ナイフか何か持ってねーか!」 「バカ野郎、海水浴にそんなもの持ってくるわけねーだろ!」 「………くそっ、だめか──ん、そういえば」  玲央はあることを思い出す。 「紗菜ー! 紗菜ー! お前確かさっき俺のシャツ持ってきてたよな!  そいつの胸ポケにワンテンが入ってるから、そいつをこっちに投げてくれ!」 「わ、ワンテンって何よ!?」 「フォールディングハンター! 折り畳みナイフだよ!早くしろ!!」 「わ、わかったわ! でも、その間操縦桿から離れるから船が揺れるかも!!」  玲音はその時、操縦桿を離れるということが何を意味するかまったく分かっていなかった。  紗菜が投げたのだろう、ワンテンが玲 央の足元数メートル先に転がった。  玲央がますます揺れを見ながら慎重にワンテンを拾い上げたその時。  いくつも連なり、巨大化した大波がまるで生き物のように一気に船体に襲い掛かった。  抵抗する暇もなく、玲央も、終も、紗菜も荒れ狂う海に否応なく投げ出された。  転覆したボートが視界に入ったとたんに絶望感という黒い感情が一気に玲央に襲い掛かった。  上着を着ていた紗菜が身動きとれずに身体をばたつかせていた。 すぐさま助けに入ろうとした玲央の身体を、ロープが邪魔をする。
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