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そのまま、1年がすぎた。
あいつは地元の大学に進学を決めた。
そして俺は、浪人生となった。
彼女のことが忘れられないまま、別れてから2度目の夏が来た。
「大学、楽しいか?」
我慢できずに、俺はメールを送った。
「楽しいよ。そっちも、東京の大学を目指して頑張ってね」
返信は、すぐにきた。
相変わらず、優しい文面だった。
かわいい絵文字もデコレーションも、そのままで。
が、メール全体に漂う空気管がいつの間にか余所余所しくなっていて、俺はまたどうしようもない空しさに打ちのめされた。
やはり、このままサヨナラなのか。
そんなことばかり考えていた。
彼女は大学で、新しい環境であいつなりに精一杯頑張っている。
それに比べて、俺は。
一人だけ恋の灯をくすぶらせたまま、一人でうだうだしている…
こんな状態で、受験を乗り切ることなど出来るのだろうか。
ぼんやりした不安の中、俺は一人でもがいていた。
予備校の友人と談笑していても、心の隅にはいつも寂しさが宿ったまま。
心から笑うことが出来なかった。
自分で蒔いた種に、もがき苦しむ日々が続いた。
自業自得だとは、十分に分かっていた。
どうしようもなかった。
***
そして春、俺は無事に第一志望に合格した。
夢にまで見た、憧れのあの大学だ。
合格通知が届いた瞬間、俺はまっさきに携帯に飛びついた。
誰に、この喜びを伝えよう。
「もしもし?」
無意識のうちに、俺はあいつに電話をかけていた。
「…受かった」
「そっか。おめでとう」
あいつは、また泣いていた。
ふいに、2年前の春を思い出す。
俺は、どうしようもなくて、言った。
「今から、お前の家に行きたい」
「えっ」
「良いから、待ってろよ」
電話を切り、俺はあいつの家に走った。
2年前となんら変わりのない街並みを、ひたすら走り続けた。
「あ…」
懐かしい表札の前で立ち止ると、あいつが待っていた。
1年見ないうちに、随分と大人びている。
「…久しぶり」
少しだけ、胸が高まるのを感じた。
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