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ビールにも柿ピーにも手を付けず下を向いていると
「で、どうするんだ?」
と、高宮が先刻より少しだけ柔らかい声を出した。
「どうするって、何を?」
「沼田さんは今月いっぱいで辞めちゃうんだ。その後の班長をやるのかやらないのかって聞いてんだ」
「もしやらないって言ったら、どうなんの?」
「天野さんに頼むしかなくなる」
高宮の厳しい視線がマッシーに突き刺さる。
”これで天野さんが沼田さんの二の舞いになったらどうしてくれるんだ?”
という高宮の無言のプレッシャー。
「……やります」
無意識のうちに敬語を使っていた。
「うん。じゃあマッシーの昇進を祝して乾杯だな」
高宮はそう言って飲みかけの缶ビールを顔の前に持ってきた。
到底乾杯などする気になれなかったが、仕方なくマッシーも缶ビールを持ち上げる。
会社は多分、色々な事を色々と考えた上で人事を決めている。
だから、昇進の内示が出たら謹んで受けるべし。
マッシーは貴重な教訓を得た。
だが……
しかし……
翌月からマッシーが”ドラクエ班長”という不名誉なアダ名で女のコ達から逆にからかわれるようになることを、本人はまだ知らなかった。
- 了 -
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