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『ライル! 何処だーっ!』
ふと、聞き覚えのある怒声が耳へ届き、僕はハッと我に返り慌てて文献を懐に仕舞った。
そして、倉庫の扉をゆっくりと開けていくと、怒りで顔を真っ赤に染め上げた長老が視線鋭く仁王立ちしていた。
引き攣り笑いをしながら、頼まれていた羅針盤をそっと目の前に差し出す。
目的は果たしているのだから、もしかしたら怒られないかもしれないと希望的観測を抱いていた。
「バッカヤロウ! 何時だと思ってやがる!」
だが、淡くもその考えは打ち砕かれ、僕は叱られる子供よろしく背を丸める。
「すいません……」
「……ったく。もういい!」
怯えた顔をして謝罪した僕を残し、言葉を吐き捨てた長老は踵を返しその場を後にした。
長老の背に溜息を送り、僕は気を紛らわすため空を見上げる。
暗い夜空に栄える世界を照らす青い月と紅い月。
悲しみと怒りをそれぞれ表した様な月は、色合いから受ける印象とは違い穏やかな月光を放っていた。
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