プロローグ

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 今宵も変わらない月夜の美しさに背中を押され、少しだけ癒された心に足取りも軽くなる。 村の北側に構えられた長老の家に向かい、僕は緩やかに歩き始めた。  街灯の無いエメルドでは、月明かりや星の光、更には”月光虫<ゲッコウチュウ>”の放つ淡い緑色の光が頼りとなる。 照明としては心許無いが、夜にあわせて眠るこの村ではそれで充分だ。  次第に暑くなり始めた世界を、未だ冷たさを残した風が優しく吹き抜けていく。 伴って、灰色をした僕の髪も、弄ばれる様に前へ流された。  風は今日も心地よく、男にしてはやや長すぎる髪を掻き上げる。 辺りを見渡せば、村の至る所に背を伸ばした樹木の枝葉が靡いていた。  ざわざわと身を擦れあわせる姿に、僕は口元を綻ばせた。 大都市に比べ街灯設備さえままならず、太陽や月に合わせて寝起きする生活も、人として本来あるべき姿なのだろう。  この村で生きる事に何の不満も無い。 だけど、ここには生を実感させるものが何も無いんだ。  僕らは何のために生きているのだろうか? 時折りそんな疑問をいだくほど、毎日は平穏で不変だ。
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