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そんな生活を夢見る者もいるだろうが、ここで生まれ育った僕は変わらない毎日に辟易している。
だからといって、切っ掛けも無く動ける程の勇気は無い。
臆病さを自嘲し、様々な思いに頭を悩ませていると、気がつけば長老の家に辿り着いていた。
横開きの扉を開け、土間で靴を脱ぎ広間へ向かうと、待ち草臥れた様子で長老が座っている。
僕と目が合うと、長老は静かに口を開いた。
「ライル。こっちに来て座れ」
「……はい」
再びお説教が始まるのだろうかと怯えながら、板張りの床に敷かれた座布団の上に、促されるまま僕は正座した。
着座と同時に顔を上げると、長老の隣に見慣れない小柄な少女がいる。
燃える様な赤い髪が特徴の、何処か幼さの残る顔立ち。
しかし、服装は長らく旅をしてきたのか、随分と薄汚れている。
顔立ちと反し鋭い目元は、まるで歴戦の勇者の如くすわっていた。
傍らには無骨な大剣が置かれており、それらから冒険者ではないだろうかと考えた。
――小さいのに凄いなあ。
座高は長老より一回り低く、身長は150センチあるかないかだろう。
そんな風に観察していると、ジロリと鋭い睨みつけと共に少女は口を開いた。
「おい。てめぇ。アタシに文句でもあんのか?」
「いえ……」
観察していた事で気分を害してしまったのだろうか。
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