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残暑厳しい大学四年の夏。
私、沢村依都はいまだに貰えない内定を求めて、就職活動に励んでいた。
双子の兄である理仁は、誰でも一度は聞いたことのある大手企業の研究職として、早々に内定を貰ったというのに……。
片や私はというと、本命の企業に落ち、その後も散々な結果となり、今に至る。
こうなったらとりあえずは何処でも引っ掛かればいいや!!と半ばやけくそでエントリーシートを送っていたところへ面接を受けにいく。
こじんまりとした地元の中小企業である本命だった所に比べ、大手企業なので受かるわけないと思ってはいるが、焦りで血迷ったのか、何故か応募してしまったのだ。
「あー……今日も暑くなりそう」
暑さや気の進まない面接に、駅まで向かう私の足取りは自然と重くなる。
「もう帰りたい……でも帰れない」
そんな事をブツブツと呟いていると、あっという間に駅に着いていた。
改札口を潜り、ホームに向かう。
主要駅ではない小さな駅なので、人も疎らだ。
ホームにあるベンチに座って一息吐いたところで、乗車予定の電車が到着した。
車内も込み合ってなく、余裕でシートに腰掛けることが出来る。
私は鞄から読みかけの小説を取り出し、読み始めた。
到着予定の駅までは約一時間。
その間は小説に没頭し、嫌なことを忘れられる。
緊張感なんて、今の私には微塵もない。
落ちたら落ちたとき……と楽観的に思っている。
悪足掻きもせず、なるようになれと、半ば諦めているというのが正しいのだけど。
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