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何度目かの駅に到着した時、沢山の人が車内に乗り込んできた。
さっきまではガラガラだった車内は、あっという間に座席は埋め尽くされ、吊革に捕まっている人もいる程に込み合う。
読んでいた本を閉じ、鞄にしまう。
顔をあげると一人の女性が目に入った。
その女性は一目でわかるほど大きなお腹の妊婦さんで、込み合う車内の中で出入口付近の手摺に捕まっている。
その傍らには旦那さんらしき男性がいて、周囲に押し潰されないよう女性を庇っていた。
恥ずかしさもあったが、私は持っていた鞄を座席に置いて席を立ち、その女性の側まで人を掻き分けながら向かう。
「あ、あの……良かったら私が座っていたとこに座りませんか?」
「え……いいんですか?」
私の申し出に女性は戸惑いながらもホッとした顔をする。
「私はもうすぐ降りますし……」
「あ、ありがとうございます!!」
私はすみません、通してくださいとまた人を掻き分けながら女性を誘導する。
鞄を置いているところまで辿り着いたら、そこには中年の女性が座っており、私の鞄は足下に追いやられていた。
「あの、すみませんが私のかば「は?これ、あんただったの?こんな場所取りして、常識の欠片もないの!?」
その女性はいきなり私を罵倒しだした。
「いえ……私が座っていたのですが、此方の「あんた、若いんだから座ってないで立ちなさいよ!!」いや、だから此方の女性に席を譲ろうと思って……」
私は妊婦さんをその女性に見せ、席を替われと催促した。
しかし
「妊娠なんてねー、病気じゃないんだから立ってなさいよ!!」
という何とも訳のわからない屁理屈で今度は妊婦さんを罵倒しだした。
今にも泣きそうな妊婦さんと、呆気に取られた私。
旦那さんに至っては、顔を真っ赤にして今にも怒鳴りそうな勢いだが、女性が必死になって堪えさせていた。
何も言わない私達にヒートアップしていく中年の女性にだんだん怒りが込み上げてくる。
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