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駅に降り立ち、改札口を抜けると、今更ながら緊張感がじわじわと押し寄せてきた。
ここはビジネス街なだけあって、周りはスーツ姿の男性や女性で溢れかえっている。
ふぅ……と深呼吸を一つした後、小さく気合いを入れ、面接会場である会社に向かった。
一応、事前に会社の所在地は確認してあったのでどれ程の大きさかは把握していたが、改めて目の当たりにするとあまりの大きさに怖じ気づく。
エントランスを潜り、受付に向かう。
「すみません、面接に来たのですが、会場は何階になりますか?」
受付嬢に訊ねると
「面接会場は十階、第一会議室になります」
と社内図を出して、教えてくれた。
「ありがとうございます」
私は軽く一礼をしてエレベーターに向かおうとすると、受付嬢の方が小声で
「頑張ってくださいね」
と笑顔で言ってくれた。
私も笑顔で
「はい、ありがとうございます」
と返し、今度こそエレベーターに向かった。
エレベーターが到着し、私も社員の中に混じって乗り込む。
十階のボタンを押し、ドアが閉まるのを見ていると何やら横から視線を感じた。
そちらの方に顔を向けると
「君、面接に来た学生さん?」
男性がにこやかに話しかけてきた。
「はい」
私は一言だけ答えると
「そう、君みたいな威勢のいい子と働けたら楽しそうだ」
と男性は笑顔のまま言う。
「……え?」
「あ、十階に着いたよ。頑張ってね」
軽く背中を押されエレベーターを降りると、ドアが閉まっていく。
振り返ると男性が小さく手を振っていた。
……何だったのだろうと疑問に思ったが、先程の出来事を見られたのだと気付き、頬が紅潮していくのを感じた。
まぁ、見られていて当然な訳だけど、今更ながら意図してないとはいえ、揉め事を起こしてしまった自分に項垂れてしまう。
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