スギノハ

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「やっとあがり」 そう書かれたノートの切れ端。 靴の下で飛ばないように挟まっていた。 もう、あがり? そう、あがり。 俺はあがれなかった。 手首にある傷がその証だ。 なんでそうなるんだろ。 屋上に呼び出したのは何で? ドアを開けると落ちるようにしたのは? 支え、支えられてる関係だと思ってたのに。 彼女はノートの切れ端だけを遺したわけではなかった。 遺書。 というにはあまりに悲しいものだった。 恨みも書かれているそれは、読む者の心を蝕んだ。 でも一つ 俺に対しては謝罪が書かれていた。 何度も何度も謝られた。あなたは悪くない、と。 それでも溢れだす闇を止められなかった、と。 彼女が遺したのは遺書だけでもなかった。 彼女は花を飲み込んでいた。 その花はアマという。 背の高く。小さい青い花をたくさんつける。 花言葉を二人で調べた事があった。 冬。図書館で調べた。 室内にも関わらず暖房がついてない。 マフラーまでして調べた。 ダッフルコートまで着てた。 あの時。 ねぇあの時。 死にたいって思ってた? あんな笑ってて闇を隠してた? 俺では支えられなかった? あの時。 あの時調べたアマの花言葉 「あなたの親切が身に染みる」 お前はそれを飲み込んだ。 どんな気持ちだったか分かる気がする。 いや、分からなくてもいい。 信じたい。 俺は彼女にスギノハを手向ける。 手首の傷はなくならない。 俺があがる時は最後の最後。 その一歩先でずっと待ってて欲しい。 誓うためのスギノハ。 次に顔を合わせる時に恥ずかしくないように。約束をちゃんと守れるように。 その為のスギノハ。 花言葉は「あなたのために生きる」
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